介護短歌集

「 恩師より贈られし本 我を刺激し歌詠む真似す。」
    妻の中高時代の恩師より同様に脳障害となった妻の介護を詠った歌集をいただきました。それに触発され心得のないまま拙劣な文字並べをしてみました。

「 リセットを、押されし君は、赤子かな、穏やかな顔 静かに育つ。」
    倒れてすぐは植物状態だった妻もわずかづつですが回復がみられ赤ちゃんの生育のように感じられました。

「 語りかく我の額に手を伸ばし そっとゴミ取る萎えし君の手。」(5/18)
    2010年5月18日のことでした、顔を近づけて話しかける僕の方に妻の左手が伸びてきました。何が言いたいのかなと思っていると僕の額から何かゴミをつまんで取りました。
他への思いやりが出きるほど回復したのがうれしい感動でした。

「 白髪の顔に浮かぶは若き日の 艶やかな髪、輝く笑顔。」
    染めることのなくなった髪は白髪が広がりました。老いた顔も骨格は変らず昔日の妻の表情が想い出されます。

「 右手でも 管を引き抜き困らせる 回復うれし両手にミトン。」
    左手では流動食用の経鼻チューブを抜くことがあるので特に食事中や夜間はミトンという大きな鍋つかみのような手袋をしていますが右手もそこそこ動くようになり5月20日ころだったでしょうか右手でもチューブを抜いてしまいました。不快なのでしょう無意識に抜くのだと思います。手袋をするよと言うと頷いて自分から手を差し出すのが哀れです。在宅介護に向け「胃ろう(腹部から直接胃に入れる)」を病院に打診しています。

「 人の言う、男の介護それまでの 罪滅ぼしと、我も同様。」
    男の介護は罪滅ぼし、女の介護は仕返しという言葉の書籍があるらしいことを雑誌で知りました。自分も当てはまると思いました。
(友諭す、罪滅ぼしは失われし時を求める彷徨と。)

「 突然に言葉をなくす我が妻と 喧嘩もできず蜜月の日々。」
    たおれる前は妻の欠点ばかり見て喧嘩をしていましたが、今は彼女の長所しか見えなくなりました。

「 父の死を知らされぬまま床に伏し 家へ戻る日待ち望む妻。」(5/25)
    この5月22日に彼女の父が亡くなり25日に密葬を行いました。立場上私が喪主となりましたが妻には知らせていません。

「 介護部屋 壁の汚れは30年分 快適めざし無心に磨く。」
    在宅介護に向け、介護予定の部屋の家具を処分すると壁のクロスにシミがあり全体に黒ずんでいるので洗剤とブラシで清掃しています。

「調子どう?尋ねる僕にOKサイン、思いがけない自発行動」5/26頃
    人差し指と親指で丸を作るOKサインを教えていましたが自分からサインで返事してくれると嬉しいですね。

「好きだよと何度言ってももう遅い、元気な頃に言うべきだった。」

「口すすぎ 喉がゴックン、誤飲より嚥下ができるを知る喜び。」
    妻の歯磨きをしていると喉が動き、どうも飲み込んでいるようでした。ものを飲み込めると思い以後マーマーレードを舐めさせたりゼリーなどを与えてみました。

「我が歌は気持そのまま文字ならべ、ひねりがないのがちょっとさびし。」

退院日 近づくほどに落着かず、妻より我うきうきと。」

「病む妻よ 君がふさげば 我も落ち込む、ケンカをしていた日々が懐かし」

『何処行くの?』口の動きと破裂音 君の問いかけ 予期せずうれし(10/16)
在宅になってからのことです。私の問いかけに顔を立てに頷くか横に否定するかの反応しかしない妻が「ちょっと出掛けてくるよ」と言うと口の動きで「どこへ行くの?」と問い返したことがありました。

妻の恩師より贈られた介護短歌集